『天高く馬肥ゆる秋いかがお過ごしでしょうか。』
秋の時候の挨拶として使われるこの言葉ですが、どのような意味なのか気になり、調べてみました。
「天高く馬肥ゆる秋」の意味
秋は空が澄み渡って高く見え、馬も食欲が増して肥えるような収穫の季節。
天気が良くて食べ物も美味しく、過ごしやすい秋を称賛する意味合いで使われています。
ですが元々は今のような快適な意味ではありませんでした。
『天高く馬肥ゆる秋』の由来
「天高く馬肥ゆる秋」は、中国唐代の詩人・杜審言(としんげん)の「漢書」にある次の一文に由来します。
「雲浄妖星落 秋高塞馬肥」
(そらきよくしてようせいおち あきたかくしてさいばこゆ)
「妖星」とは凶事の前兆と信じられていた不吉な星(彗星や流星など)
「塞馬」とは北方の馬(ここでは遊牧騎馬民族・匈奴<きょうど>の馬)のことをさします。
秋になると肥えてたくましく育った馬に乗って敵(匈奴)が攻め込んで来るから警戒せよ、といった内容です。
中国の王朝・前漢(紀元前206年-8年)では、遊牧騎馬民族・匈奴との戦いが激化していました。
匈奴は秋になるとたくましく育った馬に乗って収穫物を略奪しに来ることが多かったため、前漢の将軍が敵の襲来に備えるよう警告したのです。
紀元前214年に秦の始皇帝によって作られたといわれる「万里の長城」は、騎馬民族の侵入を防ぐための高い壁ですが、当時は一部しか建設されていなかったため、匈奴の侵入を十分に防げませんでした。
その後、匈奴が滅亡すると、「天高く馬肥ゆる秋」は過ごしやすい秋の到来を表す意味合いで使われるようになりました。
現代で使われている意味合いとしての『天高く馬肥ゆる秋』ですが、「馬も食欲を増して肥えるような収穫の季節」「食べ物の美味しい秋」と認識されている方も多いと思います。
秋は「食欲の秋」なんて言われますが、なぜそのように言われているかというと秋に旬を迎える食べ物が多いというのも理由の1つですが、実は私たちの体の仕組みも関わっています。
その大きな理由の正体は、食欲の調節や精神の安定させる作用を持つ神経伝達物質である「セロトニン」。
別名「幸せホルモン」とも呼ばれる「セロトニン」はあらゆる快楽と密接に関わっているのですが、近年では日光を浴びた時間によって分泌される量が変化することも分かってきました。
そして、セロトニンは日光を浴びることの他に「食事を摂ること」でも分泌されます。
秋から冬にかけて日中の日射時間が減少することによって、精神を安定させるためのセロトニンが不足し、それを補うために人の食欲が増加すると考えられています。
秋に収穫の時期を迎える野菜は太陽からの恵みを溜め込んだ栄養の宝庫、旬の野菜にはその時期の気候に合わせて私たちの体調を整える働きがあり、厳しい夏を乗り越えた疲れとこれから迎える厳しい冬に備えた体作りに役立つといわれます。
特に秋の野菜はビタミン・ミネラル・食物繊維が豊富で、でんぷん質による甘味があるものが多いという特徴があります。
身体のバランスを整えたり、高い抗酸化作用を持った食材の多い秋ですが、意識しなければ献立に入れる前に旬が過ぎ去ってしまいます。
冬の寒さを迎える前に秋の食材のパワーをたっぷりと蓄え、心身共に健康な生活を送りましょう。
とはいえ、いくら栄養素に優れているとしても食べ過ぎは禁物です。
「食欲の秋」は自制心と戦いながら楽しみましょう。